映画『山〈モンテ〉』

STORY

神や自然、人間からも見棄てられたその男は、
すべてを苦しめる忌まわしき山と対峙する―

中世後期イタリア。南アルプスの山の麓にある小さな村の外れで暮らすアゴスティーノと妻のニーナ、息子のジョヴァンニ。この村は、壁のようにそびえる壮大な山に太陽の光を遮られており、思うように作物を育てることができずにいる。他の家族はよりよい暮らしを求めて去っていった。しかし、アゴスティーノとニーナは彼らの説得にも応じず、先祖の墓や亡き娘の墓があるこの地を離れようとはしなかった。飢えた家族となんとか生き延びるため、アゴスティーノはあらゆる手を尽くすが、周囲の村の者達からは異端者として差別され、遂にはそこに暮らすことさえも禁止されて家族は離れ離れになってしまった。もはや手立てはなかった。神や自然、人間からも見棄てられたアゴスティーノは、たった一人で彼らを苦しめる忌まわしき山と対峙する―。

INTRODUCTION

巨匠アミール・ナデリが切望した
イタリアでのオールロケを敢行

敬愛する“黒澤明”の精神で描く
孤高の傑作

 監督は、天涯孤独の少年を圧倒的な映像美で描いたイラン映画の金字塔『駆ける少年』(85)、西島秀俊主演『CUT』(11)も記憶に新しい現代イラン映画の巨匠アミール・ナデリ。長年イタリアで映画を撮ることを夢見ていたナデリが、遂にイタリアでのオールロケを敢行。ミケランジェロやアントニオの彫刻に影響を受けたと語るナデリは、孤立無援のなか肉体を過剰に酷使する男の限界突破を美しく描き出した。
 また、敬愛する黒澤明作品のようなダイナミックなカメラワークと音響で表現された山々と人物の喜怒哀楽は、見る者の心を大きく揺さぶる。それはまるで風土や歴史、芸術に捧げられる、黒澤明の精神で作られたイタリア彫刻作品のようだ。第73回ヴェネツィア国際映画祭「監督・ばんざい!賞」を受賞。本年度の東京フィルメックスでも回顧上映が特集されるなど、今まさに各国で注目を集めるアミール・ナデリが作り上げた孤高の傑作である。

FILMMAKER AMIR NADERI

監督・脚本・編集・音響 アミール・ナデリ

1945年、イランのアバダンに生まれる。スチール・カメラマンとして活動した後、脱獄犯を主人公とする犯罪映画「さらば、友よ(Good By Friend)」(71)で映画監督デビュー。続いて殺人を犯して逃亡する男を街頭ロケを多用して描いた第2作「タンナ(Tangna)」(73)を監督。70年代イラン映画のスター、ヴェヘルーズ・ヴォスーギを主演に迎え、財産も名誉も奪われた男の壮絶な復讐を描いた「タングスィール(Tangsir)」(73)は批評家から高く評価されると同時に興行的にも成功をおさめた。その後、アッバス・キアロスタミらとともに児童の情操教育のために設立された児童青少年知育協会(カヌーン)をベースに活動。ハーモニカの所有をめぐる子供たちの争いを描いた『ハーモニカ』(74)、台詞を一切排した映像詩的な中編『期待』(74)など、独自のスタイルをもった児童映画を監督する。『駆ける少年』(84)、『水、風、砂』(89)は、2作連続でフランスのナント三大陸映画祭で最優秀作品賞を受賞。イラン映画が海外で評価されるきっかけを作った。その後、アメリカに移住し、ニューヨークをベースに活動。『マンハッタン・バイ・ナンバーズ』(89)はヴェネチア映画祭、「A,B,C, マンハッタン(A,B.C….Manhattan)」(97)はカンヌ映画祭「ある視点」部門で、『ベガス』(08)はヴェネチア映画祭コンペティションで上映された。2011年は、西島秀俊を主演に迎え、日本で撮影した『CUT』を監督。続く『山<モンテ>』(16)は全編をイタリアで撮影した。最新作はロサンゼルスで撮影され、ヴェネチア映画祭で上映された『マジック・ランタン』(18)。

フィルモグラフィー
1971
さらば、友よ(Good By Friend)
1973
タンナ(Tangna)
1973
タングスィール
1974
ハーモニカ ※児童青少年知育協会製作
1974
期待(中編) ※児童青少年知育協会製作
1978
メイド・イン・イラン(Made in Iran)
1978
レクイエム(Requiem)
1980
捜索(Search) ※ドキュメンタリー
1981
捜索2(Second Search) ※ドキュメンタリー
1984
駆ける少年 ☆ナント三大陸映画祭 グランプリ 受賞
1989
水、風、砂 ☆ナント三大陸映画祭 グランプリ 受賞
1993
マンハッタン・バイ・ナンバーズ
1997
A,B,C, マンハッタン(A,B.C….Manhattan) ☆カンヌ映画祭「ある視点」部門
2002
マラソン
2005
サウンド・バリア ☆ローマ国際映画祭 ロベルト・ロッセリーニ批評家賞 受賞
2008
ベガス ☆ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門 SIGNIS賞 受賞
2011
CUT 主演:西島秀俊
☆高崎映画祭特別賞 受賞/☆日本映画プロフェッショナル大賞 監督賞 受賞
2014
アーサー・ペンの演出(Mise en Scene with Arthur Penn) ※ドキュメンタリー
2016
山<モンテ> ☆ヴェネチア国際映画祭 監督・ばんざい!賞 受賞
2018
マジック・ランタン

CAST

アゴスティーノ アンドレ・サルトッティ Andrea Sartoretti

たった一人で忌まわしき山に挑む主人公・アゴスティーノを演じたのは、アンドレ・サルトレッティ。山を砕くシーンでは、実際に腕を痛めながら撮影した。また東京フィルメックス(16)での上映時には来日も果たしている。
ニューヨーク生まれフランス育ち、ローマに移住し現在もイタリアで活動している。主な出演作に『M:i:III』(06/J・J・エイブラムス監督)、『暗黒街』(15)や『ボーダライン ソルジャーズデイ』(18)で知られるステファノ・ソッリマ監督の過去作作品で、18年に日本公開された『バスターズ』(12)などがある。

ニーナ クラウディア・ポテンツァ Claudia Potenza

アゴスティーノを支える妻・ニーナは、イタリア映画やドラマに出演しているクラウディア・ポテンツァが演じた。イタリア・プーリア出身。ローマで演劇を学んだ後、国内の映画・テレビドラマに出演している。主な出演作は、日本ではイタリア映画祭にて上映されたロッコ・パパレオ監督作品『南部のささやかな商売』(13)、『Basilicata coast to coast』(10/日本未公開)などがある。

ジョヴァンニ (少年)ザッカーリア・ザンゲッリーニ Zaccaria Zanghellini (青年)セバスティアン・エイサス Sebastian Eisath

アゴスティーノの息子・ジョヴァンニの少年時代は演じたザンゲッリーニは、イタリアで子役から活躍している俳優。主な出演作は『MGS: Philanthropy - Part 2 』(14/日本未公開)、『Insane』(15/日本未公開)。
青年期を演じたセバスティアン・エイサスはイタリアで活動している俳優。
父と共に山に立ち向かう青年期のジョヴァンニを力強く演じた。